手ぶらで途中下車の旅~空港線穴守稲荷駅で降りてみたら、神社とプリンにこめられた願いに心打たれました

羽田空港からほど近い、京急空港線の穴守稲荷駅を降りてすぐ。住宅街の中に、朱塗りの鳥居が連なる神秘的な空間が現れます。ここには、空の安全と旅の無事を祈る「穴守稲荷神社」と大田区みやげ100選に選ばれた「はねだぷりん」があります。羽田の地に根付いてきた歴史を紐解きながら、お散歩気分で訪ねてみました。

羽田の守り神として

「お稲荷さん」と聞くと、商売繁盛や農業の神様を思い浮かべる方も多いはず。穴守稲荷神社も、もともとは江戸時代に干潟だった現在の空港一帯が田んぼとして開発された際、その豊穣を願って祀られたのが始まりです。

大きな赤い鳥居でお出迎え※2025年7月上旬に伺ったので、「夏越大祓」のための茅の輪がまだ飾られていました。

やがて羽田のまちが発展し、明治〜昭和初期になると、穴守稲荷は温泉や海水浴とともに行楽地の中心としてにぎわいました。実は、京急空港線の前身である「穴守線」は、神社への参拝客を運ぶために開業したのだとか。これによって、観光地として多くの人が訪れるようになりました。

境内にずらり、願いのこもった鳥居

境内に足を踏み入れると、いくつもの小さなお社や祠が目に入ります。それぞれ稲荷神を祀ったもので、「必勝」や「出世」「開運」など、願いごとに応じた信仰が息づいています。

中でも印象的なのが、何重にも連なる赤い鳥居のトンネル。江戸時代からの風習で「鳥居を“通る”」「願いが“通る”ように」との語呂合わせから、参拝者が奉納したものだそうです。現在の空港内に当たる旧鎮座地には約4万6千基の鳥居があったとも伝わり、京都・伏見稲荷を上回る数を誇っていたとか。穴守稲荷の鳥居が「羽田の一奇観」「関東地方の一名物」と呼ばれていたのもうなずけます。

数々のお社がある

海外からも信仰を集めた、開かれた神社

明治〜大正時代、羽田は気軽に訪れることができる行楽地として人気を集めていました。そのため、横浜の外国人居留地に住む外国人の参拝も多く、イギリス人が狐像を奉納したり、中国人が石の鳥居を寄進したりというような、国際色豊かな信仰の記録が残っています。

さらに、アメリカや台湾といった海外に住む邦人からも篤く信仰されていた記録も残っており、まさにインバウンドの先駆けともいえる存在です。国籍や立場を問わず、多様な人々を受け入れてきた懐の深さが、この神社が長く愛され続けてきた理由のひとつなのかもしれません。

羽田=空のまち、のルーツはここに

羽田空港ができる以前、大正時代にこの地には「日本飛行学校」が開かれ、飛行機のパイロットを夢見る学生たちが無事に飛べるようにと、穴守稲荷に祈願に訪れていたといいます。

「日本飛行学校」ジオラマ

その後、昭和に入り東京飛行場(現・羽田空港)が開港。戦後の空港拡張に伴い神社は現在地へ移転しましたが、長年にわたり空港関係者や航空会社職員に「空の守り神」として信仰されてきました。かつては空港ターミナルの屋上にも御分霊が祀られていたほど、密接な関係が続いているのです。

羽田の物語にふれる小さな旅へ

近未来を感じさせるような羽田空港のすぐそばに、こんなにも古くて深い歴史を持つ神社があることは、意外に知られていないかもしれません。赤い鳥居のトンネルをくぐり抜けながら、空と旅、そして羽田のまちとの結びつきに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

東京羽田穴守稲荷神社

〒144-0043 東京都大田区羽田五丁目2番7号
TEL:03-3741-0809 FAX:03-3741-0713
最寄り駅:京急空港線「穴守稲荷駅」より徒歩5分
ホームページ:https://anamori.jp/
【開門・閉門時間】
拝殿外からの参拝:24時間(境内には自由に入れます)
昇殿参拝・祈祷:9:00~16:00
御守り授与・御朱印:8:30~17:00

穴守稲荷神社の参拝後に寄りたい、地元で愛される「はねだぷりん」BookCafe~羽月

穴守稲荷神社を参拝したあとは、美味しいプリンでほっとひと息ついてみませんか?
今回は、羽田エリアで人気の「はねだぷりん」をご紹介します。

駅を降りるとすぐに見えるBook Cafe 羽月

はじまりは、昭和の本屋と食堂から

はねだぷりんが食べられるBook Cafe 羽月。もともとは、1953年に「羽田食堂」と「羽田書店」として創業しました。当時は現店主の祖父母が営んでおり、店内の柱を境に、片側が食堂、もう片側が本屋というユニークな形だったそうです。やがて食堂は閉店し、本屋だけが残ることに。

しかし2000年代に入り、スマートフォンやパソコンの普及とともに、街の本屋さんは次第に厳しい時代へ。一度は閉店しましたが、2009年、「本とカフェ」を組み合わせたBookCafe羽月として再スタートを切りました。


店内は壁一面にたくさんの本があり、自由に読めます

「はねだぷりん」誕生の裏側

今や羽田の名物として親しまれている「はねだぷりん」ですが、誕生のきっかけは、意外にも別の場所にありました。きっかけは、近所で居酒屋を営んでいた方が、「地域の人たちと仲良くなりたい」という思いから作ったのが、プリンの始まりでした。当時の羽田は、今ほど観光客もおらず、外から来た人を受け入れにくい風土もあったそう。そんななかで、地域の人々とのつながりを作るために生まれたのが“はねだぷりん”だったのです。

その後、羽月がブックカフェとして生まれ変わるタイミングで、「一緒にやってみよう」というご縁から現在の「はねだぷりん」が誕生しました。現在はその方は別の場所へ移られましたが、レシピはそのまま受け継ぎ、当時の味を守り続けています。


入ってすぐにプリンのショーケースがお出迎え

手作りプリンと、心を満たす空間

プリンは常時5種類ほどが並び、営業の合間にすべて手作業で丁寧に仕込まれています。日によって種類が変わることもあるそうです。

季節限定のプリンも登場し、これからの時期には、かぼちゃプリンやマロンプリン(9月〜11月頃販売予定)などが楽しめます。営業しながら作られているため、出会えるかどうかはタイミング次第。

ハロウィンの時期には、ジャック・オー・ランタンの刻印が入った特別なプリンも。

ハロウィン時期だけに刻印されるカボチャプリン(写真提供:BookCafe~羽月)

現在では地域の人々はもちろん、羽田空港が近いという立地もあり、海外からの観光客にも人気です。フードメニューには定食などの食事もそろっているため、食事を目的に訪れる外国人の方も少なくありません。

あるアメリカ人観光客の方は、近くのホテルに宿泊中に1週間で3回も来店し、最後には「とても美味しかった」と丁寧に挨拶をして帰られたのだそう。他にも漫画を描いている著者の方から色紙をいただくなど、いろんな方との交流もあり、憩いの場としても人気なのがうかがえます。

素材へのこだわりが詰まったプリン

プリンに使われているのは、相模原市の養鶏場で育てられた「昔の味たまご」。餌や水、環境にまでこだわって育てられた卵で、卵本来の味がダイレクトに感じられます。牛乳も、イタリアンの有名シェフも使うような上質なものを使用しており、素材への妥協はありません。大田のお土産100選にも選ばれたのも納得です。

実際にいただいた「大地」というなめらかプリンは、やわらかくふわっとした口当たりで、スッと溶けていくような食感。ほどよい甘さと、カラメルのほろ苦さのバランスが絶妙で、食後にはしっかりとした満足感が残りました。

素材にこだわって作られたなめらかな大地プリン(490円)

「羽田で生まれた味」に、会いに行こう

地元の人たちに育まれ、丁寧に受け継がれてきた「はねだぷりん」。その背景には、人と人とのご縁、羽田という土地への想いが詰まっています。空の安全と旅の無事を願ってお参りしたあとは、羽田の地で生まれたやさしい味「はねだぷりん」で、ひと息つく時間を。穴守稲荷神社と「はねだぷりん」、どちらにも、この街が育んできた人々の想いが、静かに息づいています。

はねだぷりんBookCafe羽月(うづき)

住所:東京都大田区羽田4-5-1
定休日:月、不定休
Instagram:https://www.instagram.com/hanedapurin/
TEL:03-3741-1817
最寄り駅:穴守稲荷駅(京急空港線)

weaveeライター/間橋ともこ