花月総持寺駅から5分ほど歩いた住宅街にひっそりと佇む和菓子店「菓心 雪梅庵(かしん ゆきうめあん)」。
店主は中国出身の雪梅(せつばい)さんです。和菓子に惚れ込んだ雪梅さんは母国での仕事を辞めて来日したのだそう。今では、和菓子の大会で何度も上位入賞を果たすほどの腕前です。
商品にかける時間と労力を惜しまない雪梅さんの和菓子は、どれも個性が光り、心がこもっています。店主から受け取った心のバトンを他の誰かに渡したくなる。そんなお菓子が並んだ店内でした。
果物の恵みを感じる
和菓子たち
雪梅庵の1番の人気商品はフルーツ大福。白あんと求肥に包まれた旬のフルーツは宝石のように輝いています。
ひと口食べると口の中にジュワーっと沁み出る果汁。果物の酸味や甘みをダイレクトに感じました。

桃大福(400円)、キウイ大福(350円)
毎日、市場に仕入れに行っているという旬の果物は、みずみずしいという言葉がぴったり。季節によって並ぶ味が変わるため、来店するたびに新しい出会いがあります。

(マンゴー/ぶどう/青りんご各400円)
元々は店主が1人で始めた店ですが、今は夫の雄一(ゆういち)さんと二人三脚。
和菓子づくりの経験がなかった雄一さんですが、コーヒーわらび餅を開発するなど雪梅庵に新たな風を吹かせています。
雪梅庵で出会ったという2人は、取材の日にもお互いに声を掛け合いながら作業をしていて、息の合った様子が伝わってきました。

太陽に負けじと
輝く夏限定の和菓子たち
店主が紹介してくれたのは、葛粉(くずこ)を使った葛アイス。モチモチした中にシャリシャリとした食感もあり、大きな具材がアクセントになっていました。
葛アイスの最大の特徴は溶けにくいこと。我が子が小さいときは、食べるのに時間がかかり、溶けたアイスで手や周りがベトベトになって大変でした。葛アイスならそんな心配も少なく、親子でゆっくり楽しめそうです。

葛アイスは全部で20種類。抹茶や柚子など和のものからフルーツ系、サイダーやコーラといった変わり種まで。中でもはちみつレモン味は、仕込みに3日以上かかる手の込んだ一品なのだとか。
2025年に販売を始めた頃は、伝統的な和菓子とは少し違う商品を出すことに迷いもあったそうですが、それを支えたのはお客さんからの「おいしかった」という言葉。
次第に心のモヤモヤは晴れていき、雪梅庵を代表する夏の和菓子になりました。

「くまぷるるん」はイベント限定。葛アイスを牛乳やサイダーなどの飲み物で割ったもので、最初は「飲む葛アイス」として販売をしていたそうです。
しかし、雪梅庵に来ていた近所の子どもが「飲む葛アイス」を見て「くまぷるるん」と命名。かわいい名前に惚れ込んだ店主がすぐに採用を決めました。

ヨーグルトみかん味(写真右)
すると、それに続くように、くまぷるるんの歌を考える子どもが出てきました。地域の子どもたちのひらめきから、みんなに愛される雪梅庵の新名物が誕生しました。
くまの形をした容器の中で、クラッシュした葛アイスがぷるるん。かわいい名前と楽しい食感で、イベントで見かけたら手に取りたくなる一品です。
※くまぷるるんの歌やイベントの出店情報はインスタグラムで紹介されています。
和菓子の文化を広めたい
店主が和菓子に出合ったのは、中国で事務職をしていた時のこと。日本人のお客さんから上生菓子をもらって、その美しさに魅了されたのだとか。
「和菓子に関わる仕事がしたい」
その思いは日に日に大きくなり、務めていた会社を退職。単身、日本に語学留学に来ました。努力家の店主は、通常2年ほどかかる語学学校の卒業資格を1年で取得したそうです。その後は、日本全国の和菓子店で働きながら和菓子について学んでいきました。
※上生菓子:美しい造形で、四季の移ろいなどを表現した立体的な和菓子

しています
将来的には母国である中国に日本の和菓子文化を持ち帰って、日中の文化の架け橋になることが目標なのだとか。
とはいえ、中途半端なものは持ち帰りたくないと考えた雪梅さんは、和菓子界で認められる職人になることを目指すようになりました。

2022年、全国菓子研究団体連合会が主催する技術コンテストに出場。100人近い出場者がいる中、外国人の出場者は雪梅さんただ一人。金賞を受賞し、名前を呼ばれた時の喜びはひとしおだったそうです。
和菓子の世界で経験を重ねた審査員から評価を受けたことは、雪梅さんにとって大きな自信になったと言います。

技術が上達した雪梅さん。今度は地域の人とつながりたい、恩返しをしたいと次なる行動に出ました。
店内に1畳ほどの畳の小上がりスペースを作り、子どもとゲームをしたり、おしゃべりをしたり。店主自身が子どもたちと関わる空間を作ったのです。
当初は小学生だった子たちが高校生になり、店を手伝ってくれる子も出てきたのだとか。雪梅庵は子どもたちが安心できる場所であり、成長を見守る場所にもなっていました。

来店した子どもとのコミュニケーションツールだそう
2026年の新商品は、生麦囃子(なまむぎばやし)サブレ。以前から販売していたサブレの生地を最中の皮の中に入れるという斬新なアイデアで開発した一品です。
中に入っている生地は、フロランタンのような味わいで、クルミやアーモンドが入っている洋風の仕上がり。コーヒーにもよく合います。
「最中だと思って食べてみたら、中からサブレ生地」という驚きが楽しい商品です。

サブレのモデルになっている生麦囃子は、横浜市無形民俗文化財に認定されている伝統芸能のひとつ。囃子に合わせて、獅子舞やおかめ、ひょっとこの舞をするのだそう。
名物を作って地域を盛り上げたいという思いが詰まった生麦囃子サブレ。生麦のお土産に買っていく人も少しずつ増え、店主の想いは広がっています。
心を込めてこそ
日本の和菓子文化
「日本に来て気づいたのは、同じお菓子でも環境によって味が変わること」
雪梅さんは、お菓子のおいしさに加え、笑顔とあいさつ、おもてなしの心をもって接することが大事だと気付いたそうです。
それらが和菓子の味を一層おいしくしている。菓子には心。そう思った雪梅さんは、店名の前に「菓心」と付けました。 心を込めて和菓子を作り、心を込めて人を迎える。雪梅さんの和菓子は、誰かに手渡したくなる温度があります。

スポット情報
取材日 2026/08/01
※本記事に掲載されている情報は取材当時のものです。最新の情報とは異なる場合がありますので、お出かけの際は事前にご確認ください。