京急蒲田駅を降りて線路沿いに12分ほど歩くと、住宅街の一角に「蒲田温泉」があります。温泉街を彷彿とさせる大きな看板が目印。1937年に創業した蒲田温泉の地下からは、現在でも絶えず黒湯が沸き出ています。
都内で最初に温泉許可を取得したという蒲田温泉。浴室に残るタイル画、薪で沸かす黒湯、湯上がりに人が集まるロビー。そこには、昭和から続く銭湯の時間が流れていました。
時代を刻んだ 湯に包まれる
入口を入ると、2台の券売機。ここで入浴チケットを購入します。レンタルタオルやシャンプーなど入浴料以外は、受付で代金を支払います。
毎月第1日曜日は、小学生以下の入浴料が無料に(※大人1名様につき、子ども2名まで)。取材時には、父親が息子2人を連れて入浴に来ている場面も見られました。家族で訪れる人の姿もあり、90年近く、地域の暮らしの中にあり続けてきた銭湯です。

サウナは別料金です(300円)
蒲田温泉を語るうえで欠かせないのが、濃い色をした「黒湯」です。昭和の時代から絶えず出続けている黒湯は、この場所で多くの人を迎えてきました。
ここの源泉は冷たい状態で湧き出す「冷鉱泉」です。そのため、源泉をそのまま利用した水風呂を堪能することができます。
また、高温に沸かした黒湯と水風呂を行き来したり、サウナの後に水風呂へ入ったりと、思い思いの入り方ができます。

湯船に足を入れると、すぐに見えなくなってしまうほど真っ黒なお湯。浸かるときには手すりを持ってゆっくり入りました。
沸かされた黒湯は、高温湯と低温湯に分かれています。高温湯は45℃前後で、少し肌に響きます。常連の方は平気な顔をして入浴していましたが、心配な方は40℃前後の低温湯から試してみるとよいかもしれません。

黒湯の正体は、大昔の海藻や植物が長い年月をかけて分解されたものなのだとか。ミネラルがたっぷりで「美肌の湯」と呼ばれることもあるそうです。湯に浸かると、見た目の濃さとは違い、肌あたりはやわらかく感じられました。
浴室内には他にも、ジェットバスや電気風呂、鉱物化学研究所監修のガリウム石温浴泉があります。

タイル画(写真上)
蒲田温泉の社長によると浴室内のタイル画のデザインは、開業当時の名前に由来をしているとのこと。現在は「蒲田温泉」という名前ですが、開業当時は「蒲田温泉 月日(つきひ)の湯」だったそうです。その「月」と「日(太陽)」にちなんで作られたのが、現在も残っているタイル画です。
開業時からずっとこの場所で歴史を刻んできたタイル画は、蒲田温泉が重ねてきた時間を見守っているようでした。

たっぷり温泉を楽しんだ後は、湯のぬくもりを抱いたままロビーでほっと息をつきます。ロビーでは、銭湯の定番であるビン牛乳やイチゴミルク、蒲田エール(ビール)などを販売していました。

(写真提供:蒲田温泉)
私が選んだのは、宮城県から取り寄せているという「手作りアイスキャンデー」。1945年生まれで、長さが13cm以上ある特大サイズです。シャリシャリとした食感と素朴な甘さが、火照った体に心地よく感じられました。

ロビーにいると誰からともなく世間話が始まって、同じお湯に浸かったもの同士、距離が少し近くなる場所でした。
昭和な雰囲気に包まれる食堂
建物の2階には、食堂があります。館内からの入口のほかに、建物の外からも直接入れるので、温泉を利用していなくても気軽に利用できます。
私は温泉に入った後に、裸足のまま館内の階段から食堂にいきました。足裏に伝わる静かな贅沢。ふかふかとした絨毯の踏み心地が非日常を感じさせます。

蒲田食堂はもともと大きな宴会場でした。広い座敷には長机に座布団が置かれ、一段上がった舞台が設けられています。
現在の食堂は、2025年12月にリニューアルしたもの。古き良き雰囲気の宴会場部分は残しつつ、厨房周りのカウンター席と、窓際のテーブル席が新設されました。

新設されたカウンター席とテーブル席(写真奥)
食堂でよく選ばれているメニューを聞くと「どれを食べても全部おいしいよ」と社長。
「どんなにおいしいご飯でも、毎日食べていたら飽きるでしょ。だから一つだけではなく、どのメニューも自分が食べたいと思える味にしたんです」と心の内を話してくれました。

迷ったあげく、一番人気メニューだという「温泉釜めし」をいただくことに。お米は社長のふるさとである新潟県栃尾(とちお)産のこしひかりを使っているそうです。
その他、宮城県産の鶏肉、北海道産のニンジン、青森県産のゴボウ、大分県産のシイタケ…。どれも美味しく仕上げているという社長の言葉通り、釜めしに使われている食材は全て国産です。
ふたを開けると、具材の香りがふわりと立ち上ります。湯上がりにゆっくり味わいたくなる、どこか懐かしい味わいの釜めしでした。
※注文を受けてから炊き上げるので、お時間に余裕をもってご注文ください。
守りつつ 変わる
蒲田温泉の黒湯は、加水をせずに源泉を薪で沸かしています。入口の横には薪が積まれていて、釜で燃やされている様子を見ることができました。
薪は解体業者から建物の柱を譲り受けているのだそう。このやり方は開業時から変わりません。

一方、時代に合わせて変化をしていることもあります。
使い捨てタオルやシャンプーがセットになった手ぶらセット(入浴料込で900円)は、会社帰りの人や、少しでも荷物を減らしたい子連れの方に人気なのだとか。
また、ランニングの拠点として利用する人もいるそうです。昔ながらの銭湯でありながら、時代に合わせて使われ方も少しずつ広がっています。
※京急のまちマガジン「なぎさ No.654」にて「銭湯ラン」をご紹介しています
あいさつから始まる
あたたかな湯
取材時には、10時のオープンと同時に、続々とお客さんがやってきました。そして、受付では挨拶が交わされます。1人暮らしだという年配のお客さんは「ここに来れば誰かに会えて話ができる。楽しい毎日になるんです」と話していました。
黒湯に浸かり、ロビーで誰かと言葉を交わし、食堂で湯上がりの時間を過ごす。蒲田温泉には、ただお湯に入るだけではない、地域の居場所としての時間が流れていました。
スポット情報
蒲田温泉
■住所:〒144-0053 東京都大田区蒲田本町2-23-2
■電話番号:03-3732-1126(みなさんに いいふろ)
■営業時間:10:00~24:00
■定休日:年中無休
■アクセス:京急本線 「京急蒲田駅」 徒歩12分
■WEBサイトURL:【公式】蒲田温泉|大田区蒲田の老舗銭湯
■Instagram:Instagram
蒲田温泉食堂
■定休日:不定休
■営業時間:11:30~21:00(L.O.20:30)
※14:00〜18:00頃に休憩をいただく場合があります。
※営業日はインスタグラムでご確認ください。
取材日 2026/08/16
※本記事に掲載されている情報は取材当時のものです。最新の情報とは異なる場合がありますので、お出かけの際は事前にご確認ください。