【三浦海岸】幻の古本屋「汀線」で味わう“偶然”という贅沢な体験
2026.04.18
三浦

【三浦海岸】幻の古本屋「汀線」で味わう“偶然”という贅沢な体験

小林有希

ライター

小林有希

  • #アート

畑が広がるのどかな菊名の土地に、そっと佇む古本屋「汀線(ていせん)」。月にたった1週間ほどしか開かない店舗には、“古本との邂逅”を求めて地元の人々が集います。

古本屋では並ぶ本の種類も、出会うタイミングも、すべてが偶然。手元に届くまでに、本が様々な人と過ごしてきた時間を想像しながらページをめくると、新しい世界が静かに広がっていきます。

店主・村山敏朗さんは、その古本屋ならではの魅力を「自分では制御できない“出会い”」と語ります。

偶然が開く物語の扉

店名にある「汀線」は、海面と陸地とが接する線を意味します。そこは常に変動する“ゆらぎ”の場であり、「人が世界を認識するときに生まれる境界線にも似ている」と村山さんは話します。

「性別でも価値観でも、私たちは多くの境界線を引きながら生きています。でも、その境界線は固定されたものではなく、常に引き直される余地があるものだと思います。僕にとって読書は自分の認識に揺らぎを与え、活性化させる行為の一つなんです」

村山さんは、そんな本や読書のあり方を大切にしたいと思い、店名に「汀線」とつけたそうです。古本屋に通っていた大学時代を振り返り、村山さんはこう続けます。

「ネットだと欲しい情報にアクセスすることは容易ですが、自分に都合の良い情報しかアンテナに引っ掛からない気がします。僕自身も敢えてリアルな書店に足を運んだとき、思いがけないものに出会うことがありました」

狙っていた本よりも、思いがけない一冊が心の向きを変えてしまうことは珍しくありません。そんな偶然の発見は、アルゴリズムに最適化された現代ではますます貴重なものになっています。「アナログな場として古本屋を残したい」という村山さんの言葉が静かに響きます。

“渡し手”としての喜び

「買取の現場では、私自身がお客さまと同じ立場で、本との出会いを楽しんでいます」

そう穏やかに笑う村山さん。新刊書店では仕入れる本を自ら選びますが、古本屋の仕入れは市場や買取の場に並ぶものがすべて。何が集まるかはその場次第です。

そして村山さんは出張買取ならではの魅力もあると言います。それは持ち主の方から本だけでなく、本への想い、思い出や共にこれまで歩んできた時間に触れることです。

「前の読者の“歴史”に触れながら、次の読者へ物語を渡していく。そこに古本屋という仕事の面白さを感じます」

さらに村山さんは、新刊書店が“現在”の本を横軸に広げられる場だとしたら、「古本屋は“過去”から縦軸に本を深掘りしていくことができる場」だと教えてくれました。

すでに絶版になった本、現時点で評価されていない作品、忘れられかけた昔の知識――。古本屋では、そういった本にもう一度光を当てることができるのです。

小さなギャラリーが広げる、
つながりと余白時間

「汀線」は古本だけでなく、店内に小さなギャラリースペースも設けています。年に2、3回、アーティストの展示やワークショップも行われ、取材時には小木久美子さんの作品が空間を彩っていました。

「展覧会をすると、作品を直に見たり、アーティストの方と話したりすることの重要性を感じます。スペースの課題もありますが、今後は読書会や句会など、本をきっかけに人が集まる場を育てていけたらと考えています」

棚を眺め、ページをめくり、時に作品に触れ、偶然の出会いに身を任せる時間。その先には、あなたの境界線を揺らす出会いが待っているかもしれません。

正体不明〈feel かんじる/よい子のまち〉による創作物

取材日 2025/11/25

※掲載されている商品、価格、情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。

かつて美術館や美術専門の古本屋で働いた村山さんの経験から、写真集やアート関連の本が揃います。
古本屋は「店主の力が入ったジャンルが売れ筋となる」と村山さん。汀線ではアート、文芸、人文、次いで漫画、映画、音楽が主力のジャンルです。
村山さんのパートナーが学生時代に使っていたという複写機。本の製版原稿や写植文字をつくることができる機械だそうです。
同じく、写真家であるパートナーの私物。昔のカメラや映写機が、アート関連の棚の上に置いてありました。
ご縁があって出会った、三浦在住の作家・小木久美子さん。外国の紙幣や新聞紙を千切って石に貼り付けてコラージュするなど、紙関連の作品が多く、古本屋との親和性を感じられたそうです。
スポット情報

汀線

■住所:神奈川県三浦市南下浦町菊名493
■電話番号:050-6882-5988
■営業時間などの情報:
※毎月の開所日はInstagram、またはHPをご確認ください。
■定休日:不定休
■アクセス:
京浜急行「三浦海岸」発、京浜急行バス「内込」より徒歩2分
■URL:https://www.teisen-books.com/

この記事を書いた人

小林有希

ライター

小林有希

東京在住フリーライター/Web編集。2016年にアパレル企画兼バイヤーを辞めて、ライターに。 紙、WEB問わず企業PR、ファッション、アート、地域、建築、教育、働き方など多分野で執筆中。

この記事をシェアする!