【横須賀】古布に“生命力”を吹き込む!カンタ刺繍作家・笹本祥巨さんが並縫いで紡ぐ自由な物語
2026.04.01
三浦

【横須賀】古布に“生命力”を吹き込む!カンタ刺繍作家・笹本祥巨さんが並縫いで紡ぐ自由な物語

うみのとなり

ライター

うみのとなり

「カンタ」とは、インド・バングラデシュにまたがるベンガル地方に古くから伝わる伝統的な刺繍です。もともと家族の幸福と繁栄を祈って作られてきました。 基本的には「並縫い」をひと針ひと針を重ねていき、さまざまな表情を生み出していきます。

ささやくような「地刺し」の温もり


静かな時間が流れているかのような、心癒されるカンタの作品です。布の表面には、さざ波のような柔らかい凹凸があります。美しい風や光のような繊細な感触が伝わってきます。
この豊かな表情が、細く丁寧な並縫いだけのシンプルな刺し方で生み出されていることに驚かされます。
中央の渦巻きは、「反時計回り」で刺し進めていきます。この時、少しずつ目の大きさを変え、縫い目をずらしながら重ねていくことで動きのある模様が生まれます。
中心の渦を囲むように、マスタードイエローの環が光を添え、静と動が混じり合う洗練された美しい作品です。

白布に白糸を重ね、模様が整然と浮かび上がる――まるで布が呼吸するように立体感を帯びたデザインです。鮮やかな赤で埋められた葉のようなパーツと、白抜きの花びらのようなパーツが交互に重なり合い、万華鏡のような美しい世界に引き込まれるようです。「カンタのモチーフには、花や葉、動物、そして幾何学模様など、さまざまなものがあります。同じモチーフでも、人によって全く印象の異なる作品が生まれるのも面白いところです」と作り手の笹本さんが教えてくれます。

少数民族の手仕事に引き込まれて

カンタを手がけるのは、セレクトショップ nomadicraft(ノマディックラフト)代表の笹本祥巨さんです。
自然・旅・民族をテーマに、タイ、ベトナム、ラオスの山岳地帯に住む少数民族の手仕事を扱い、オンラインショップや出店などで販売しています。
屋号のnomadicraft(ノマディックラフト)は「遊牧民」を意味するノマディックと「工芸品・手芸品」を意味するクラフトを組み合わせた造語です。
笹本さんは、昔から少数民族の文化や紋様に興味がありました。その民族の文様を書いたり、刺したいという思いから、アイヌ刺繍を習い、布を修繕・再生させるボロや刺し子などを経験してきました。

カンタとの衝撃的な出会い

そんな中、日本でカンタを広めた第一人者である、望月真理先生の存在を知ります。
望月先生は、インドで素朴なカンタに魂を揺さぶられるほどの衝撃を受け、その後40数年間にわたりカンタを刺しながら独自に研究し続けてきた方です。

望月先生の本を開いたところ、簡単な縫い方が紹介されていました。カンタは基本的に「並縫い」で進めるため、「これならできそう」と感じたそうです。すぐに望月先生のワークショップに通い、ワークショップ終了後も師事していました。また、モチーフに込められた意味や古い布を慈しみ、日々の営みの中で針を進めるという奥深さに、「カンタの哲学と自分の価値観が合致する部分があった」と笹本さんは話します。

「生地を渡されて、真ん中に葉っぱの輪郭を書いてから『じゃあ刺して』、『針を動かせば分かるから、とりあえず動かしなさい』と言われ驚きましたが、自由な発想や並縫いで広がる奥深さが自分にはガッチリとハマった。これだ!と思いました」と初めてのワークショップを振り返ります。
ワークショップでは、縫い始めと終わりの玉止めを作らないことや、裏表が反転するため「裏もカンタだと思って縫いなさい」といった基礎を教えてくれました。
しかし、きれいな縫い方など技術的なことは、あまり教えてくれなかったそうです。そこには、自分の縫い目で自由に、揺らぎや遊びを楽しみながら進めていくという、カンタのあり方を基にした「自分で考える」「まずは人に答えを求めず考えなさい」という望月先生の厳しくも温かい想いがありました。
「自分の作りたいものを、考えながら試行錯誤し、形にしていくことをその大切さも含めて、望月先生から教えていただきました」

力を抜いて「自由」に表現していく

真ん中から縫い始めた模様を途中の段階で望月先生に見せたところ、「『窮屈で息苦しい』『窮屈で見ていて疲れる』『頑張りすぎじゃない?もっと力抜いて楽しんだ方がいいわよ』とボロクソ言われましたが、同時に言い当てられて驚きました」と苦笑します。

先生の言葉を受け、周りの部分を丸だけに統一し、力を抜いて制作を続けました。その模様を見た先生は「いいじゃない」「あなたこれ伸ばしていった方がいいわよ」と褒めてくれたそう。「どんな気持ちで針を動かしているか」「どんな姿勢で向き合うか」など、カンタへの姿勢や心持ちが、そのまま作品に表れることを実感した瞬間でした。

今、欲しいものは「刺す時間」

笹本さんが布に描き出すのは、心の奥にある静かで深い世界です。
そのアイデアの源は、自然と向き合う中で感じ取る、目には見えないけれど確かな力のすべて。
まるで民族の衣装や日常の布のように、自然の大きな流れや道理を布に重ね、物語を紡いでいきます。
その手仕事から生まれる独特の手触りや模様は、生命力にあふれ、私たちの心に響いてきます。

今後は、創作や展示などの発表の機会にも力を入れていきながら、各地でのワークショップを通じてカンタの楽しさを伝える活動を継続していきたいとのこと。自由に表現し、作り上げる時間を愛おしむーー
カンタは、完璧さを求めるものではなく、感じたものを布に描き出す、やさしくて自由な世界。
これからも笹本さんの手から生み出されるカンタの物語が楽しみです。
横須賀や神奈川県内数カ所、東京でワークショップを開催しています。並縫いで進めるので初心者の方も気軽に楽しむことができます。
自由な発想で、あなただけのカンタを作り上げてみませんか。

取材日 2025/10/3
※掲載されている商品・情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。

ギャラリー

望月真理先生の著書やカンタに関する書籍には、手仕事の温もりや自由でのびやかな表現の魅力が詰まっています。
持ち歩く裁縫道具には、見るだけで気分が上がるかわいいアイテムを詰めています。
看板犬のレラちゃんは、かけがえのない存在です。
スポット情報

◾️店舗名:nomadicraft(ノマディックラフト)
◾️住所:神奈川県横須賀市内
◾️URL: http://nomadicraft.com/

この記事を書いた人

うみのとなり

ライター

うみのとなり

横須賀在住取材ライター。マーケティング視点を強みに、「読まれる記事」「届く発信」で、地域の魅力と価値を発信中。Yahoo!ニュースでは月間MVAを4度受賞、実績に裏付けられた発信力あり。日本テレビ、大手・地域メディアで多数執筆し、約1000件以上の実績あり。農業・グルメ・観光・イベントまで幅広い分野を網羅、行政や企業とのタイアップ実績も多数。

この記事をシェアする!