横須賀・上町商店街に佇む「たかなし洋服店」。司法の道を志した店主が、家業を継ぎ守り続けるのはフルオーダーの洋服店です。
約6,000種類の生地から紡ぐあなただけの一着

店内に一歩足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、圧倒されるほどの生地の数です。ロンドンやイタリアから仕入れた服地は、実に約6,000種類。舶来服地や国産生地、シルクやウール、カシミヤなど、最高級素材が揃います。
「羊毛の持つコシや耐久性、そして時を経ても美しさを失わない風合いは、イギリス製が最も優れています。一方で、シルクのような柔らかさや繊細な質感を求めるときには、イタリア製の生地ですね」と店主・高梨さんが丁寧に教えてくれます。

生地は「バンチブック」と呼ばれる見本帳に収められ、色や柄、手触りを確かめながら、自分だけの一着を想像することができます。1920年代のチャップリンを思わせるクラシカルな装いから、若者に人気のタイトなデザイン、さらには舞台で映える真っ白な衣装まで、理想を形にするための生地を見つけることができます。
型紙を起こし、一着を仕立て上げるまでにかかる時間は、およそ一か月。その服は、体型が大きく変わらなければ、10年経っても美しさを失わず、着る人の人生に寄り添い続けます。スーツ上下は 4,1800円(本体価格38,000円)から。メンズ、レディースはもちろん、Yシャツやブラウス、帽子まで幅広く手がけています。仕立て券は、ふるさと納税の返礼品としても選ばれています。
(H3)創業昭和29年 横須賀に残る“老舗のテーラー”

横須賀中央駅から徒歩約10分。昭和29年に創業した「たかなし洋服店」は、2026年で72年目を迎えます。かつては多くの注文服店が軒を連ねていたこの街も、時代の流れとともに姿を変え、型紙からすべてを仕立てる本物のテーラーは、今では数えるほどになりました。日本全国でも、白紙から型紙を起こす伝統的な手法を守り続ける店は貴重な存在です。
司法の夢から「一着」の世界へ

テーラーとして確かな技術を持つ高梨さんですが、若い頃には全く別の夢を追っていました。高校3年生の時に見た映画『アラバマ物語』の正義感に打たれ、法学部に進学、弁護士を志していました。しかし、3度の司法試験挑戦という試練の中で、恩師がかけた「自分を育ててくれたお店を継ぐ道も、君の道ではないか」という言葉が、人生の舵を大きく切らせました。
「外で修行してこい」父が下した無給の修行

家業を継ぐ決意を伝えた息子に、父が最初に告げたのは「外で修行してこい」という言葉でした。経験のないまま店に立つことを、父は決して許しませんでした。まず金沢文庫で型紙の基礎を学び、その後、父の紹介で赤坂の名門・上原洋服店へ。二年間の無給修行は決して楽なものではありませんでしたが、そこには横須賀では得られない至高の技術と、一流の客層がありました。横須賀では決して経験できない充実した日々だったと話します。
修行時代には、当時の浩宮様、現在の天皇陛下の仮縫いモデルを務めるという、職人として一生忘れられない経験も重ねます。国会議員や力士など、さまざまな人の「人生の一着」に関わる中で、店を継ぐ覚悟と誇りが、少しずつ自分の中に育っていきました。
「平和な世の中の楽しみ」を縫い上げる使命

先代の昭さんは、戦後間もない何もない時代に「着るものを作り、みんなに着てもらうことが平和な世の中の楽しみだ」と語り、昭和29年に店を開きました。その後、一級洋服技能士の資格を取得し、神奈川県知事から優秀技能者として表彰されるなど、卓越した技を磨き続けてきました。
着る人の個性を引き立てる端正な仕立てと、妥協のない手仕事。その姿勢は、地域の若手職人の育成にも注がれ、神奈川のものづくり文化を支えてきました。高梨さんが一人ひとりと向き合い生まれる一着は、着る人の平和な日常を願いながら、人生の時間に静かに寄り添い続けます。節目でなくても、日々を豊かに生きたいと願うときに訪れたいテーラーです。
取材日 2025/12/1
※掲載されている商品・情報は取材時点のものであり、変更される場合がありますのでご了承ください。
ギャラリー



スポット情報
◾️店舗名:たかなし洋服店
◾️住所:神奈川県横須賀市上町1-46
◾️電話番号:046-822-4384
◾️営業時間:9:30~19:00
◾️定休日:木曜
◾️アクセス:横須賀中央駅より徒歩約10分
◾️URL:http://www.takanashi-suits.com