京急上大岡駅。再開発によって巨大な複合ビルが建ち、多くの人が行き交うこのエリアに溶け込む、パブリックアートの存在をご存じでしょうか?京浜急行線と鎌倉街道に沿って伸びる、全長約300mの大型複合ビル『ゆめおおおか』。このビルの内外で出会える、18組のアーティストが手がけた19のパブリックアートは1996年、上大岡駅前再開発計画の一環、『ゆめおおおか・アートプロジェクト』によって設置されました。

上大岡の歴史や暮らしを反映した、このまちでしか生まれないアート

このプロジェクトのユニークな点は、地元、上大岡エリアの歴史や生活を反映することを条件とした完全なるコミッションワーク(受注制作)であるところ。設置する作品は、上大岡の住民自らが、アーティストらの企画を協議・選定した上で決定しました。その結果、採用されたアートはどれも、上大岡という土地の歩みやそこで暮らす人たちの息遣いが感じられるものとなっています。

また、駅やバスターミナルが集まるこの再開発エリアは、日々、多くの人々が通過する交通のターミナル拠点でもあることから、全作品に共通するコンセプトを「パッセージ=通過」と設定。アーティスト達はこのコンセプトをおもいおもいにとらえ、「出会いと別れ」、「過去と未来」、「日常と非日常」、「文明と自然」など、通過地点としてのドラマを相反するキーワードで表現しました。ひとつのコンセプトから、アーティスト達が発想したキーワードを連想してみる。そんなアートの楽しみ方も一興ですね!

日本・アジアの若手アーティストによるパブリック・アートが集結

『ゆめおおおか・アートプロジェクト』は、作品のスケール、作品数ともに、国内有数のパブリック・アートです。アーティスト達は、「国内・アジアの若手」という条件の中から選定されており、結果として、当時まだパブリック・アートの経験がないフレッシュな作家が勢ぞろい。村上隆や奈良美智など、いまや日本を代表するアーティストとなった有名作家の作品にも出会えます。

また、いかにも「アートの展示」といったかしこまった形式ではなく、設置する場所そのものを作品のコンセプトに織り込み、アートとまちの風景を調和させているのも、このプロジェクトの特徴です。「なぜこんなところにこんなものが?」。一瞬通り過ぎそうないつもの風景の中で、心に小さなひっかかりを感じた時、見る人を何気ない日常から別の時空へと誘う。そんなおもしろさを感じられるでしょう。

京急上大岡駅の改札を出たら、ショッピングセンターや商店街でにぎわう再開発地域を散策しながら、日常の風景に溶け込むアート探しを楽しんでみてはいかがでしょうか?

あの世界的アーティストの若手時代の作品も!全19点の見どころは?

①崔正化(チェ ジョン ホァ)/仮想の庭園 “Imaginary Garden”

設置場所:ゆめおおおか オフィスタワー2階エントランス
オフィスビルのロビーを現代の日本庭園に見立てた作品。弧を描くミラーガラスが行き交う人を映し、自然との対比、融合という錯覚を促します。

②平川典俊(ひらかわ のりとし)/パッシング・モーメンツ “Passing Moments”

設置場所:ゆめおおおか 2階・4階 屋上庭園
センターコートを囲む10本の柱に文章を配置し、円柱型のアトリウム全体を作品に転化したもの。日常で気づかない真実を、私たちに垣間見せてくれます。

③倉重光則(くらしげ みつのり)/不確定性正方形ー正方形のある交番 “Indefinite Square - Koban with Squares”

設置場所:ゆめおおおか 1階北側
日本で初めての、アーティストが作った交番。パネルの4色は、水色は「純粋な心」肌色は「健康な肉体」黒は「強靭な精神」黄色は「暖かい感情」を表し、 人間のあるべき姿を象徴しています。

④吉水浩(よしみず ひろし)/グッドラック “Good Luck“

設置場所:ゆめおおおか(ウィング上大岡) 西側歩道
「グッド」と親指を立てた幸運のサインを、抽象的に表した作品。 明るいブルーは希望、ちりばめられた星は幸運を象徴し、道行く人の幸運を願っています。

⑤小沢剛(おざわ つよし)/JIZO 001

設置場所:ゆめおおおか(ウィング上大岡) 2階南西側エントランス
巨大なビルの片隅にジゾウを仕掛けて、建築の小さな隙間に私たちの目を誘います。予想外の場所に設置されたジゾウは、周囲の空間を謎めいたものに見せるでしょう。

⑥村上隆(むらかみ たかし)/DOB君、こんにちわ “Hello, Mr. DOB”

設置場所:ゆめおおおか(ウィング上大岡) 4階エレベーターロビー
港南区の花、ひまわりを連想させる鮮やかな黄色のベースに、作者がおなじみのキャラクター、「DOB君」を描き、屋上を訪れる人に陽気なメッセージを贈っています。

⑦長沢伸穂(ながさわ のぶほ)/ あなたはどこへいくのか?あなたはどこからきたのか?

設置場所:ゆめおおおか うねうね壁外階段
ゆめおおかの外階段の蹴上げ面に8ヵ国の言語で彫られた作品。哲学的で普遍的な命題といえる5種類の文章で、生きる意味や未来について考えさせるような作品になっています。

⑧奈良美智(なら よしとも)/ワールド・イズ・ユアーズ ”World is Yours”〔4点組〕

設置場所:ゆめおおおか(ウィング上大岡) センターコート2~4階吹き抜け
特色ある吹き抜け空間を子どもの遊び場に見立て、強く生きる人間の姿を表現した女の子、ルーシーと、作者の子供時代をイメージした男の子など4作品を設置しています。

⑨木津文哉(きづ ふみや)/子ども達は時を駆け抜ける

設置場所:横浜銀行 上大岡支店ロビー
キャンパスに描いた絵画と、壁のブルーの帯に展開したレリーフからなる作品です。絵画の中の子供たちはキャンバスから飛び出て、銀行のロビーの上を元気よく走り回っています。

⑩高柳恵里 (たかやなぎ えり)/トラベラー “Traveler“

設置場所:京急百貨店 4階屋上広場壁面
アルミと金属パネルによって構成された巨大な彫刻は、未来に進む旅人と、実り多き森を想起させます。屋上の人工的な空間に現れた大きな森と木陰の陰喩です。

⑪Navin RAWANCHAIKUL(ナウィン・ラワンチャイクン)/「わたし」の歴史 あなたのなかにある

設置場所:ゆめおおおか(ウィング上大岡) 3階ガーデンコート
上大岡周辺の歴史を題材にした本のオブジェ。設置時に、上大岡の子供たち300人分の未来に向けたメッセージを詰めており、タイムカプセルを兼ねています。

⑫福田美蘭(ふくだ みらん)/ ジグソーパズル ヨコハマ “Jigsaw puzzle (Yokohama)”

設置場所:港南区民文化センター ひまわりの郷
ベイブリッジや港南区の花ひまわりなど、横浜の風景をモチーフとした絵はがきをコラージュし、ジグソーパズルにした作品です。

⑬平林薫(ひらばやし かおる)/音のカタチは光のカタチ・・・
設置場所:港南区民文化センター 4階ホワイエ
音楽ホールのホワイエという場所に合わせて、音楽をテーマに壁画を制作。音楽への思いとこの生まれ変わった神山岡への希望を表した、叙情詩と言える作品です。

※正式なタイトルは以下
「音のカタチは光のカタチ 人々に気付く間もなく 静かにその光はやってくる やがてそれは天の一つ所に集まりて 瞬く間にここより拡がる ユメ多く ユメ大き ユメオオオカ 上大岡 この地より 発せられし光 風となり」

⑭PHスタジオ/ルーフトップ・パッセージ “Rooftop Passage”〔8点組〕

設置場所:ゆめおおおか 中央棟4階屋上庭園
社(やしろ)を象徴的に再現した「鎮守の森」や、この地にあった飲食店のイスを再生して組み合わせたベンチなど、上大岡の過去を取り込んだオブジェ8点を展開した作品です。

⑮シムリン・ギル /フォレスト “forest”

設置場所:ゆめおおおか 1階バスターミナル
熱帯の植物に文字が記された様子を写真にしたもので、自然と都市、文明が交流する姿を象徴した作品です。

⑯方振寧(ファン ツェニン)/スターライツ “STAR LIGHTS”

設置場所:ゆめおおおかエレベーター・シャフト
エレベーター塔全体が作品となっており、昼はガラスのミニマルなオブジェクト、夜は黄色いLEDによって、輝くモニュメントに変化します。

⑰岡崎乾二郎(おかざき かんじろう)/谺(こだま)の原っぱ
音楽ホールの音に共鳴して波打ち、まさに飛び去ろうとする空飛ぶ絨毯と、その影からなる作品です。絨毯はパイプのうねりで表され、影に相当する部分には 人工土が敷かれています。

⑱須田悦弘(すだ よしひろ)/花 過ぎるものとそうでないものと

設置場所:三菱UFJ信託銀行 上大岡支店1階入口天井
銀行入り口の目立たない場所にある壁に向かって咲く、木彫りの花。ロマンティックさが不可解な空間をつくり出し、人々の失われた記憶を呼び起こします。

⑲吉水浩(よしみず ひろし)/ブルーム “Bloom

設置場所:ゆめおおおか 屋上換気塔
巨大な換気塔を覆うように設置された作品。大きさ、容積ともに国内で最大級のオブジェです。 ダイナミックな曲線と築層した平面が躍動感を表しています。

【基本情報】

場所:神奈川県横浜市港南区 横浜市営地下鉄/京急上大岡駅駅ビル内外
完了:1997年3月
事業主体:横浜市 都市計画局
設計・建設:株式会社 石本建築事務所(建築設計)
上大岡駅西口JV(建設工事)/鹿島建設主体
設置作品点数:19点(作家18名)