富士山の火山灰に由来する水はけのよい土壌に恵まれた三浦市は、大根の収穫量・出荷量共に全国1位を誇ります。

ただ、この輝かしい数字の裏側では、出荷の基準に合わずに廃棄されている規格外の大根が数多く存在しているという悲しい現実も。三浦の農家は以前から野菜の廃棄に心を痛めており、使えそうな部分をカットして業者に販売したり、畑の肥料にして次年度の作付けに生かしたりと試行錯誤してきました。

そんな中、「味も品質も確かなのに、ちょっと見た目が悪かったり、サイズが合わなかったりといった理由で廃棄するのはもったいない!」と新たな商品開発に立ち上がったのが、キムチ専門店「おつけもの慶」です。

写真左から渥美和幸社長、催事隊長の渥美朱美さん、専務の伊藤泰介さん

川崎市を拠点とするおつけもの慶は、「あごが落ちるほど旨いキムチ」として評判の人気店。味へのこだわりはもちろん、SDGsの推進にも力を入れていて、キムチ作りの過程で出た野菜の切れ端を野毛山動物園に無償で提供してきました。

そんなおつけもの慶と三浦市をつなげたのが、京急電鉄のNewcalプロジェクトです。

Newcalプロジェクトとは、新しいローカル(Local)のあり方を地域の方々と一緒に生み出し、新しい魅力を発見(Newな発見)をし、より多くの人に届けていこうという構想のこと。このプロジェクトをきっかけに、大根の産地である三浦と、加工地となる川崎とがエリアを超えてつながることになりました。

おつけもの慶の渥美社長は「野菜の産地が近いことは輸送コストが抑えられるだけでなく、新鮮なうちに加工できるので、より美味しいキムチが作れるというメリットもあります」と教えてくれました。

今回のプロジェクトで生まれたカクテキ。カクテキはキムチの一種で、大根を角切りにし、唐辛子やニンニクなどの調味料を使って漬ける

今回、商品化されたカクテキに使われているのは、三浦で採れた青首大根です。冬の青首大根は硬めで、カクテキを作るのには最適なのだそう。

ただ、わずかな収穫時季の違いによって大根の状態が異なるため、加工に機械を使う一般的なキムチ工場では、商品としての品質を一定に保つのが難しいのだといいます。

一方、おつけもの慶では創業当時から職人による手作業でのキムチ作りにこだわってきました。熟練の職人の手にかかれば、収穫時季による状態の違いに合わせて加工できるのはもちろん、形や大きさが1本ごとに異なる規格外の大根にも対応できます。こうして、規格外の三浦産大根はおつけもの慶との出合いによって、美味しいカクテキに生まれ変わり、京急ストア、もとまちユニオンの計31店舗で販売されています(2025年1月現在)。

というわけで、筆者もさっそく購入して食べてみることに。キムチなので小学生の息子たちには辛いかと心配しましたが、なんのその。パクパクと競争するかのように食べ、みるみる平らげてしまいました。

唐辛子のピリッとした辛さの後に、大根の甘みとうまみ、ジューシーな水分が口いっぱいにじゅわーっと。

子どもたちと食べるのも楽しいのですが、次はこっそり購入して、1人でゆっくり味わおうと思います。

アメリカ・ニュージャージー州での特別販売会の様子。いつかは三浦の大根でつくられたカクテキも海外に!?(写真提供:おつけもの慶)

アメリカでの販売会、キムチを食べながらのカラオケ大会など、今まで誰もやらなかった新たな試みに、社長自身が楽しみながら取り組むおつけもの慶。2025年2月には「8時間で最も販売されたキムチ」のギネス世界記録にも挑むのだそう。三浦とのコラボは今後も続きそうで、次はどんな三浦野菜がキムチとして生まれ変わるのか、想像を膨らませるとワクワクします。

そのうち、捨てられるはずだった三浦の野菜が川崎で絶品のキムチに生まれ変わり、やがて海を越える日もやってくるかもしれません。