『蒲田に漂う、カオスなカオリ』『夕暮れ時の羽田沖、たまらん。』。そんなユニークな名前のエッセンシャルオイルが、いまひそかに人気を集めています。手がけたのは、京急沿線、大田区羽田村を拠点にアロマブランド「カオリ乃」を展開する、アロマクリエイターのカオリ乃さん。
今回は、カオリ乃さんが香りの道に進んだ背景や、「大田区の街の香りシリーズ」を開発した理
由。地元大田区への思いや、カオリ乃さんが描く大田区の未来について伺いました。
きっかけは介護。人生を変えたアロマとの出会い
もともとは会社員だったというカオリ乃さん。アロマに興味を持ったのは、家族の介護がきっかけだったと明かします。
「お化粧や香水が好きだった母に、いい香りを嗅いで少しでもポジティブな気持ちになってもらえたらと思って、家の中でアロマを炊くようになったんです。でも気づいたら、日々介護に追われて張り詰めていた自分の気持ちまで、いつのまにか和らいでいました」
趣味で始めたアロマの魅力にすっかり魅了されたカオリ乃さんは、アロマの資格をとって仕事にすることを決意。「もっと多くの人に香りの力を体験してもらえたら」。そんな思いで、アロマサロン「カオリ乃」をオープンします。カオリ乃さんのサロンの特徴は、独自に調合したオイル。
「一般的なサロンでは、既製品の調合されたオイルを使うのですが、私はアロマを基礎から学んで、オリジナルでブレンドすることにこだわりました」
サロンと同時にアロマスクールの講師としても活動し、積極的に香りの魅力を発信していたカオリ乃さんですが、2020年前後のコロナ禍でそれまでの事業が不安定に。そこで力を発揮したのがカオリ乃さんが得意とする「香りの調合」でした。
「法人や店舗のオリジナルエッセンシャルオイルを開発・製造する『香りを使ったブランディングコンサル事業』を始めたんです。その会社のために調合した世界で一つの香りをオフィスや受付で使ってもらうことで、そこに行かないとできない体験を作ったり、香りのイメージで好感度を高めたり、企業のファンを増やすお手伝いしています」
これまでにないユニークな発想と製品の仕上がりが評判を呼び、現在までに多くの企業のブランディングを香りでサポートしてきました。
香りでまちの魅力を発信。大田区独自のコンテンツを目指す
そんなカオリ乃さんが、調合の腕をふるって開発したのが、「大田区の街の香りシリーズ」。『蒲田』『羽田』『大田区』の3つのまちをイメージした、オリジナルエッセンシャルオイルです。
「きっかけは、クラフトビールでした。そのまちでとれたフルーツを使ったり、まちの特徴を盛り込んだクラフトビールって、どんなまちでも見かけますよね。でも、香りでまちを表現した商品って見かけないなと思ったんです」
とアイデアの原点を振り返るカオリ乃さん。開発にあたっては、大田区やテーマとなるまちの資料を集め、その歴史や特徴を徹底的に調べ上げたと言います。
「大田区をテーマにした『うちら、元TKD。』は、大田区に残る古い資料や浮世絵に出てくる植物や、シンボルフラワーである梅をブレンドした香り。大田区の歴史を香りで表現しています。蒲田をテーマにした『蒲田に漂う、カオスなカオリ』は、蒲田温泉の黒湯を思わせる薬草、中華通りをイメージしたスパイスなど、蒲田を象徴する15種類の香りをブレンドしたもの。蒲田独特のなんでも混ざり合い、ひとつのまちになっている雰囲気を表しました。羽田をテーマにした『夕暮れ時の羽田沖、たまらん。』は、名前の通り、夕暮れ時の羽田の海の香りをイメージしたもの。オークモスというハーブのスモーキーなのにどこか爽やかな香りが、潮の香りや夕暮れの切なさを表現しているんです」
2023年の春に発売した「街の香り」シリーズは、羽田空港の商業施設、「HANEDA INNOVATION CITY」にサンプルを設置。ECやイベントを中心に販売すると、予想以上の反響がありました。
「特に20〜30代の若い世代が香りを気に入って買ってくださり、3種のうち2種は何度も追加生産をかけました。香りという切り口を通して、これまでアプローチできなかった層にも大田区を面白がってもらえているんじゃないかなと思います」
「街の香りシリーズ」の今後について、カオリ乃さんは以下のように語ります。
「大田区のいろんなまちで香りを作って、まちの発信に活用していきたいですね。たとえば、京急電鉄と連携して沿線上の各駅で『街の香り』を作り、駅で体験できる仕組みを作れば、観光客が立ち寄るきっかけになります。大田区は羽田空港からの旅行客の通過地点。立ち止まってもらうには、他の地域にはない独自のコンテンツが必要です。『街の香り』が大田区独自のコンテンツになっていけば、観光地として差別化を図れると思うんです」
平和島のコミュニティが稼働。再開発は、まち同士がつながるチャンス
カオリ乃さんは、香りを通じたまちの発信の他にも、さまざまな視点から大田区を盛り上げる活動に参加しています。
「現在、大田区の人や事業者を取材して発信する取り組みを独自に行っているほか、2024年の8月から、大田区と京浜急行電鉄による『平和島エリアリノベーションプロジェクト』に地元事業者として参加しています」とカオリ乃さん。
「平和島エリアリノベーションプロジェクト」は、再開発中の京急平和島駅周辺をより良いまちにするためのプロジェクト。区や参加事業者らが数ヵ月ごとに集まって、「新しい平和島」を作るためのアイデア出しを行っているのだそう。
「大田区は歴史が深いまちですが、今後の発展のためには、由緒ある情景を守り継いでいくだけでなく、外部とつながり、協力し合う努力も必要です。平和島の再開発は、新しい技術を取り入れ、大田区の他のまちと連携する良いタイミング。これまでのアナログな連携方法では届かなかった情報やつながりを、メタバース空間やDXを使って実現できたら面白そうですね」
豊かな発想力で次々とユニークなアイデアを繰り出すカオリ乃さんは、まさにまアイデアマン。これまで誰も思いつかなかったようなアイデアも、カオリ乃さんの視点と実行力があれば、実現しそうな気がしてきます。カオリ乃さんの取り組みが大田区にどのような変化を与えるのか、今後も目が離せません。