今回、インタビューしたのは、黄金町バザールを主催するNPO法人黄金町エリアマネジメントセンターの事務局長 山野真悟さんです。横浜市中区の初音町・黄金町・日ノ出町を合わせた通称「初黄・日ノ出町地区」を中心に、関東屈指の風俗街であった黄金町をアートの力をつかって再生するプロジェクトを進めています。黄金町エリアマネジメントセンターの取組みや、まちづくりについてお話を伺いました。
― NPO法人黄金町エリアマネジメントセンターの活動を教えてください。
「『黄金町バザール』などのアートイベントの開催や、『アーティスト・イン・レジデンスプログラム』などの取組みを通して、黄金町エリアのまちづくりとアーティストの活動支援をおこなっています。」
■黄金町バザール
「黄金町バザールは、2008年から毎年秋に開催されているイベントです。国内外のアーティスト・キュレーターを招聘し、アートによって街のイメージを変えようと活動しています。街という日常を舞台に繰り広げられる若手クリエイターの制作と作品展示が、黄金町に新しい風を吹き込んでいます。」
■アーティスト・イン・レジデンスプログラム
「街を守り続けるための取組みとして、黄金町エリアマネジメントセンターは、アーティスト・イン・レジデンスプログラム(以下、AIRと記載)という活動にも尽力しています。AIRとは、国内外のアーティスト・工芸家・デザイナー・建築家など、さまざまな分野で活動する人を対象に、黄金町に点在するアートスタジオを廉価で貸し出し、制作を支援するというプロジェクトです。アーティストたちが違法風俗店の退去した跡地に常駐し、芸術活動をおこなうことで、違法な小規模飲食店が黄金町に戻ってくることを防ぐ働きもあります。入居している人々が継続的に活動することが、まちのイメージを変える力になっていると感じています。」
― 「アートによる街づくり」の変化と難しさをお聞かせください。
「アートには、見慣れた空間を異空間へと変化させたり、街の新たな魅力を引き出したりする力があります。そんなアートの力をつかって、街のイメージを変え、『昔の商売に頼らなくても経済的に成り立つ地域にしていくこと』をずっと目指しています。とくに治安の悪かった高架付近や大岡川沿岸には、今では、老若男女問わず集えるアトリエやアートギャラリー、カフェ、雑貨店などがオープンし、賑わいを見せています。」
■地域再生の活動を継続すること
黄金町で約16年間、アートによるまちづくりに携わってきた山野さんは、「大切なのは、地域再生の活動を継続すること」と語ります。今、黄金町はアートをつかったまちづくりによって良い方向に大きく変化していますが、それでもなお、かつての街に戻そうとする不穏な空気は感じられるそうです。違法風俗店舗が黄金町に戻ってくることを防ぐためにも、気を抜かず、地域再生の活動を継続することが大事だと話してくださいました。
黄金町エリアママネジメントセンターが取り組むアーティスト・イン・レジデンスプログラムのほか、警察の見回りが24時間体制でおこなわれ、Kogane-X(初黄日ノ出町環境浄化推進協議会)などによる防犯パトロールが続けられているなど、地域の人々が力を合わせて街を守り、発展させようとしています。これらの活動のおかげもあって、現在では、京急線高架下で近隣の子どもたちが遊ぶ姿も日常的に見られるようになりました。この光景を守るため活動を継続しておこないたいと話す山野さんの横顔が印象的でした。
■アートフェスを通して、交流のハードルを下げたい
「黄金町に暮らす人々のなかには、外部から来た人に警戒心をもっている方もいる」とも語る山野さん。それは、黄金町が外部から来た人々に変えられ続けてきた重くつらい過去を抱えているからだと話します。
しかし、山野さんは、まちを守り続けるためにも、外の地域の人々や団体とも連携することが必要だと感じています。横浜に来る前、福岡で数十年、地域のコミュニティに入ってイベントを成功させてきた経験を生かして、地域の人との距離をどのように近づけるか、常に模索しているそうです。アートフェスは交流の機会を増やす活動でもあり、地元住民が街を盛り上げようという気概が大きい黄金町だからこそ、少しずつ一緒に街を良い方向に変え続けてこられたのではないかと感じておられます。
― 今後、黄金町はどのように発展していくといいと思いますか。
「黄金町のまちづくりの今後の課題としてよく挙げられるのは、『大岡川沿いと平戸桜木道路との間の裏通りをどのようにつなげるか』ということ。文化施設が多くある大岡川沿いや高架沿いだけでなく、川から離れた裏通りに点在するアート施設へも足を運んでもらえるように画策中です。」
■まちづくりとアートを結びつける難しさ
また、山野さんはまちづくりとアートを結びつける難しさも感じておられます。
「アートに関心のない地元の人々と、地域づくりに関心のないアーティストという、お互いの関心があまりない人々は結びつけないと、結びつかない。アーティストがコミュニティとつながれる場所をつくっていきたい」と語ります。不定期で開催される「のきさきアートフェア+はつこひ市場」というイベントもそのひとつ。アーティストと地域の人たちとの交流を促進しています。アーティストやNPOスタッフや地元住民の皆さんが日常的に顔を合わせることで、アートによるまちづくりの輪が少しずつ大きくなっているかなと感じているそうです。
ー活動をはじめた当時から、変わったことはありますか。
「少しずつ世代が変わり、戦後の黄金町を知らない若者が増えてきました。私たちは、黄金町を暗黒街や風俗街と呼ばれた時代に戻さないために活動を続けてきましたが、その活動を次世代につなげることも必要です。まちづくりの大切さを若者に伝え、活動のモチベーションを維持しつづけていきたいと思っています。」
今後も山野さんの活動に注目です。