品川駅からオフィス街を歩いて10分ほど。国立大学法人東京海洋大学のキャンパス内に、学生でなくても入れる海の博物館「マリンサイエンスミュージアム」があります。
学生の実習で使われてきた歴代練習船の模型展示や南極観測、生き物や食品など、海に関する幅広い展示を見ることができます。また、クジラの骨格標本を展示している「鯨ギャラリー」や国の登録有形文化財になっている実習船「雲鷹丸(うんようまる)」も。
都会にある海の入口を訪ねてきました。

大学の中で出合う
海の世界
マリンサイエンスミュージアムは大学構内にあります。正門をくぐる時に少し緊張しましたが、守衛室の前を通り過ぎてまっすぐ行くと、ミュージアムの入口が見えてきます。
ミュージアムは入館無料。予約不要(20名以上は要予約)で、誰でも見学することができます。

館内は「海を知る」「海の構成員(生物)」「海の利用(漁業・養殖)」「海を食べる(食品生産)」の4つのエリアから成っています。
中でも「海を知る」エリアの南極観測に関する展示は、東京海洋大学ならではの内容でした。1957年、日本初の南極観測を行った「宗谷(そうや)」に大学の船「海鷹丸(うみたかまる)」も同行していたのだとか。

館長によると、東京海洋大学の船はこれまで20回以上南極へ向かっており、そのうち13回は館長自身も同行したのだとか。南極から連れて帰ったペンギンはしばらく日本で暮らし、命を全うした後にこちらに展示されたそうです。

館内に並ぶ生き物のはく製は、全て本物から作られたもの。実物を見て学んでほしいという、大学のミュージアムらしい姿勢が伝わってきます。
展示されているはく製をよく見てみると、作った時にできた縫合跡に気づきました。このミュージアムでは、展示物との距離が近く、他の博物館では気づきにくい細かな部分までじっくり見ることができます。

はく製になっている生き物は、その土地で捕獲されたもの。しかし、現在は法律が整備されて捕獲や運搬が禁止されているものがほとんどです。歴史ある東京海洋大学だからこそ見ることができる標本がそろっていました。
展示の中で数が多いのはサケ類やマス類。これらは日本の食生活に密接に関係しているので、研究対象となることが多かったからなのだそう。標本から食文化に思いをめぐらせたのは、初めてのことでした。

向かい合う展示に動物愛を感じます
常設展のほかにも、ミュージアムでは不定期で企画展が行われています。取材に訪れた際には、特別展「東京水産大学練習船『はやぶさ丸』と遠洋まぐろ漁船『第五福竜丸』」を開催しています(2026年9月25日まで)。
1954年にアメリカの水素爆弾実験で被ばくした漁船「第五福竜丸」は、検査と除染が行われたあとは練習船「はやぶさ丸」として未来の漁業を支える学生たちの学びを支える船になったそうです。
特別展では、そんな数奇な歴史をたどった一隻の船についてさまざまな資料が展示されていました。

今回の特別展にあたり、学内の倉庫から初めて発見されたという航海日誌には、はやぶさ丸初めての日の記録がありました。
また、日誌には「相変らず飯の量少し」(原文ママ)「暑さの為頭痛を感じる者少々有り」など今も昔も変わらぬ学生らしいコメントに、思わず頬が緩みました。
骨は 生きている
ミュージアムの横には「鯨ギャラリー」があります。中に入ると、脂のような獣のような匂い。骨格標本の多くは広い空間にあるのに対し、鯨ギャラリーでは通気孔はあるものの、標本がピッタリ入る閉ざされた空間に置かれています。

(写真手前)と2005年宮城県沖で捕獲された
コククジラ(写真奥)の骨格標本
また、骨はコーティングされておらず、自然のままの状態を保っています。
そのため、捕獲から20年以上たった今でも、生きていた時に骨の中に詰まっていた脂がじわりじわりと染みだし、匂いとして感じられるのだそうです。

ギャラリー内にあるのは、セミクジラとコククジラの標本です。大きい方のセミクジラは体長17m以上。完全な骨格標本としては、世界最大級なのだとか。
鯨ギャラリーでは、そんな貴重な標本だということを忘れるくらい、驚くほど近くで観察することができます。手で触れるのは禁止されているものの、目線の高さにあるクジラの骨は質感や大きさが迫ってくるような距離感です。
2頭のクジラが、かつて海で泳いでいたことをひしひしと感じる骨格標本でした。

下に潜って見ることができます
ギャラリー内は空調がなく、外と同じ気温です。体調に気をつけながら観察を楽しみました。
年末には地域の方々と一緒に笹でクジラの全身骨格標本の埃を払う「すす払い」も行われているそうです。大人も子どもも参加する年に一回のイベントには「標本をキレイな状態で後世まで残したい」「未来を創る子ども達にも標本に愛着を持ってほしい」という願いが込められています。
学生の成長を
見守り続ける練習船
ミュージアムの入口を出て、裏の道を5分ほど進んだところに、雲鷹丸(うんようまる)が展示されています。1909年に建造されたとは思えないほどきれいな状態が保たれていました。

捕鯨に向かう小さめのボートを上げ下ろしします
雲鷹丸は、学生の捕鯨や漁業の実習に使われたほか、船上でカニ缶を製造していたという歴史的にも価値がある船です。
小林多喜二の「蟹工船」という小説が広く知られているものの、それより前から技術開発を行い、蟹工船としての礎を築いたそうです。

(提供:マリンサイエンスミュージアム)
普段は外観の見学のみですが、毎年11月に行われているオープンキャンパスに併せてガイドツアーを開催します。その日だけはデッキにあがって、船をよく知る大学の先生から雲鷹丸についての解説を聞くことができます。
※日程はホームページでご確認ください。
過去から未来へ 海はつづく
東京海洋大学は、海の未来を担う人材を育てる大学です。そんな教育の過程で使用された海の歴史がギュッと詰まったマリンサイエンスミュージアム。
今ではプラスチックで作られている漁網ですが、ミュージアムには植物の繊維で作られた古い網が展示されていました。展示された当時はありふれていたものでも、年月が貴重な品へと変貌させます。
マリンサイエンスミュージアムは、過去と未来の海がつながっている場所でした。
スポット情報
マリンサイエンスミュージアム
■住所:〒108-8477 東京都港区港南4-5-7 東京海洋大学品川キャンパス内
■電話番号:03-5463-0430
■営業時間:平日 10:00 ~ 16:00 (ミュージアム本館・鯨ギャラリー)
土曜 10:00 ~ 15:00 (鯨ギャラリーのみ見学可)
■定休日:日曜・祝日 ※その他の臨時休館はホームページでご確認ください。
■アクセス:京急本線 「品川駅」港南口より 徒歩10分
■WEBサイトURL:マリンサイエンスミュージアム
■X:【公式】東京海洋大学マリンサイエンスミュージアム
取材日 2026/07/29
※本記事に掲載されている情報は取材当時のものです。最新の情報とは異なる場合がありますので、お出かけの際は事前にご確認ください。